ハードボイルド・シスターフッド『プラダを着た悪魔』
『プリティ・プリンセス』でブレイクしたアン・ハサウェイの知名度&支持度を底上げした名作です。
ジャーナリスト志望のファッションに興味がない主人公がファッションの極地である雑誌「ランウェイ」のアシスタントに就職。鬼編集長に無理難題を吹っ掛けられながらも根性とラッキーで次第に周囲からの信頼を得ていく。
鬼の女編集長にアン・ハサウェイが認められていくさまは懐かしの夢小説のようで、王道のシンデレラ・ストーリ―はいつの時代も心が望んでいるものなのだと感じました。
数ある王道・シンデレラストーリーのなかで本作の知名度が異様に高く、そして傑作と呼び声高いのはなぜなのでしょうか?
ピンヒールとドレス、ハードボイルド
メリル・ストリープ演じる鬼編集長ミランダは冷徹・偉そう(実際えらい)・話が早い。「一度言ったことは二度言わない」を地でいくファッション界のリーダーです。
何が彼女をそうさせるのか?
彼女の理想とする雑誌「ランウェイ」を作り上げるには、鬼と言われようが嫌われようが、冷徹にスピーディーに仕事をしていくことが必要だったのでしょう。
「彼女のやること全てに賛成はできないわ」
「でも、彼女のやりとげていることは分かるのよ」
という、クリント・イーストウッドの映画のようなテーマがここまでキャッチーに面白く華やかに描かれている作品は他にないのです。
それが人気の理由のひとつではないでしょうか。
銃と麻薬ではなく、ピンヒールとドレスで描かれるハードボイルド映画を観たい方はぜひ本作をご鑑賞ください。
以下、内容に言及します。
仕事とシスターフッド
本作はある種、理想の「同僚との関係」を描いているのではないかと思います。
編集長ミランダと主人公アンドレア
弱き者やセンスに能わないものは容赦なく切り捨て、時に部下を犠牲にしても自分の立場を守る。完璧な仕事を行い、部下にも同じものを要求する。しかしプライベートまでもは守ることができない編集長ミランダ。
アシスタントとして仕事をし、彼女の姿を一番近くで観ていたアンドレア(アンディ)はその理解者になったのではないかと思います。
最終的に二人は決別しますが、街で偶然見かけた彼女にアンディは笑顔で手を振ります。
彼女はいつもの表情でアンディを一瞥し、乗り込んだ車内で笑みをこぼすのです。
この映画の行間がすごい!!2006。
第一アシスタント・エミリーと主人公アンドレア
最近では『クワイエット・プレイス』のヒットや『メリー・ポピンズ リターンズ』で活躍しているエミリー・ブラントも出演しています。
ミランダの第一アシスタントという役どころ。
主人公の先輩です。
ダサかったアンディにうんざりしながらも、「ランウェイ」での仕事に憧れと自負を持つエミリー。
アンドレアが美しくなり仕事にも慣れてきたことで、エミリーの評価はアンドレアに抜かされてしまいます。
そして夢にまでみたパリ行きの座をアンドレアに奪われ、不運が重なり交通事故に遭います。
彼女のキャラクターがこの作品を名作にしたといっても過言ではないと思います。
我慢して我慢して何も食べないでパリ行きに備えて、そのせいで頭が回らなくなったり風邪を引いたりして、結局第一アシスタントの座をアンディに奪われる。
直後、不運にも交通事故に遭い、病院のパンを食べながら「今着ているのは炭水化物を食べるあんたにふさわしいドレスじゃないのよ」と泣きギレる。
エミリーは、ミランダと同じく「ファッション」を愛している人間なのです。
ファッション誌で働く人間としての顔、プライド、必死さ、感情の爆発までをエミリー・ブラントは見事に、そして魅力的に演じています。
理想の職場関係
アンディは同僚たちと、ウェットな関係は築きません。
しかし、彼女たちは仕事をしていく中で、お互いのことを認め合います。
こういうのが理想の職場関係だよなーとつくづく思い、見ていて楽な気持ちになります。
2000年代のベスト級映画
女性のハードボイルドを描いた映画であること、作中のシスターフッドが素晴らしいこと、俳優陣の演技が素晴らしいこと、何より面白いことから、本作が2000年代を代表する作品であることは間違いないでしょう。
これからもたくさんの人に見られ、末永く愛される作品だと思います。
いい映画です!